文章を選び、どこで切るか――出題者は本屋に半日こもる

この柱では、出題者が一つの問題を作り上げるまでに何を考えているかを、順を追って見ていく。最初は、本文を選ぶところから。問題用紙に載っている文章は、たまたまそこにあるのではない。

まず、大きな本屋に半日こもる

生徒
問題を作るって、まず何から始めるの?
先生
模試であれ入試問題であれ、新しく問題を作るとなったとき、まずすることは、大きな本屋に行って半日ほどこもること。ふだんから本をたくさん読んだり、Kindleで買ったりはしているけれど、その時の流行りを見ようと思ったら、平積みされているものを見るのが早い。それで大きな本屋に行く。

いろいろな本を漁ってきて、その中から入試問題の本文に使える素材を切り出す。これが一番難しい。探すときに大事なのは、だいたい4000字前後、3000字から5000字くらいで切り取れること。そして、その範囲の中で論の展開を考えたときに、問題にできる箇所――傍線が3本くらいは引けるかどうか。

あまりに専門的な文章は入試問題として不適だし、ありきたりの文章は出したくない。入試問題は、入ってから伸びる生徒を見極めたいものなので、生徒に知っていてほしいこと、考えてほしいことを、まずは文章そのもので測ることになる。その文章の問題が解けるということは、そのことについて考えたことがある、ということだから。

読ませたい文章を選ぶ

現代文は、現代をつまびらかにする科目。だから、今どんな文章が、どんな言説が世間で注目されているかは大事なところで、極力新しい文章を取りたいと思っている。発行されて1年くらいの文章を念頭に置いて選ぶ。入試や模試の問題は、他の問題で既に使われていると没になってしまうので、それを避ける意味もある。

生徒
1年以内? そんなに新しいものから出ているの?
先生
出題者みんながそう、というわけではない。新しいものばかりを聞きたいわけではなく、伝統的な考え方を知っておいてほしい、という先生もいるし、私自身、そういう選び方をすることもある。

いずれにしても、いい文章が見つかって、3本4本、きちんと設問の傍線が引けるようなら、問題はもう作れたようなもの。そこに傍線を引けば問題になるのだから。

今なら、AIに絡む文章は多くなる。ただ、生成AIのコードやプログラムがどうという専門的なものは出ない。よく出るのは、それが社会にどういう影響を与えるのか、という文章の方。人と人とのコミュニケーション、AIと恋愛をする、AIと友達になる、AIがあれば友達はいらない――そういうものが出てきている中で、社会構造は必ず変わってくる。

中略はしたくない、リード文も書きたくない

著作権のことも考えなくてはいけない。切り取る範囲の中に、コンプライアンス上使えないフレーズがあると、そこをカットしないと問題にできないことがあるが、著者がカットを良しとしない場合もあり得る。

また、4000字前後で切り取れないからといって、7000字、8000字の文章を持ってきて無理やり4000字ほどに圧縮すると、著者にしてみれば、必要だからその字数を割いて書いたものを勝手に切られたことになる。面白いはずがない。だから、中略は極力したくない。

生徒
小説の前に付いているリード文も、同じこと?
先生
小説は特にそうで、その場面に至るまでを3行か4行のリード文にまとめるとなると、出題者の考えが著者の考えと違っていたときに、作家から怒られることになる。そんなリスクは冒したくないので、リード文はできるだけ書きたくないと考えている。

テーマは有限

文章は、長さも大事だが、テーマも大事。単語帳や問題集にはテーマ別に分けたものがいくつもあるが、入試問題に出てくるテーマは有限である、ということを頭に入れておかなければならない。

生徒
問題にできる文章なんて、いくらでもあると思ってた。
先生
受験生はそう思っているかもしれないが、いい入試問題を作ろうとしたときに扱えるテーマは、かなり限定されている。どう限定されているかは背景知識の話になるので、そちらの柱で。

扱いにくいもの

テーマの中には、扱いにくいものもある。例えば、震災の直後は、受験生がフラッシュバックを起こしてはいけないという観点から、災害、地震についての記述がある評論や小説は、入試でも模試でも自粛する傾向が強かった。ここは難しいところで、コロナはわりと話題にできた。やはり、傷つく人がどれだけいるか、という観点が、公に問題を出す学校や模試会社の立ち位置としては必要になってくる。

もう一つ、昨今難しくなってきたのが、思想的なところ。例えば、国政選挙の争点になっているような内容は、あまり扱うべきではないと思う。

グローバリズムが進んで、新自由主義経済への批判が増えたときには、コミュニズム、共産主義を見直すような文章がたくさん出た。これは入試問題にもわりと出ていた。逆に、現在は「日本人ファースト」という形で移民政策の是非が各所で問題になっているので、かつてなら多様性の重要性という形で安直に問題文にできていたテーマでも、昨今は扱いにくくなっている。

良い文章を、良い切り方で

生徒
問題の本文って、ただ載っているだけじゃないんだ。
先生
そう。良い文章を良い切り方で見つけ出せれば、もうほとんど勝ったも同然、とまで言える。これが作問の一番の要。入試は、自分の大学に入ってから伸びる生徒を見極めるためのもので、現代文は、現代をつまびらかにする科目。だから、入試素材として良い文章は、教材として良い文章になる。その文章のどこに傍線を引いて問題にするかは、次の話。

まとめ

  • 出題者は、大きな本屋に半日こもって、その時の流行りを見る。
  • 4000字前後で切り取れて、傍線が3本くらい引ける文章を探す。専門的すぎても、ありきたりでもだめ。
  • できるだけ新しい文章を取る。他の問題で使われていたら没。
  • 中略もリード文も、極力したくない。著者との関係があるから。
  • テーマは有限。しかも、災害の記述や選挙の争点など、扱いにくいものがある。
前の記事

――まず、「何を勉強しているのか」を分けて考える 「国語の勉強の仕方が分からない」「勉強しても成績が伸びない」。 昔から、本当によく聞く話である。 もちろん、現代文は一朝一夕に点数が上がる科目ではない。だったら短期的には英単語を覚えた[…]

次の記事

この柱では、出題者が一つの問題を作り上げるまでを、作る順に追っている。前回は本文を選ぶところまで。今回は、その文章のどこに傍線を引くか。 一冊買ったら、全部読む 出したい本が決まったら、あとは4000字を切り取るだけ? 出したいテーマ[…]

IMG
入試に出る 読解のための現代文キーワード700

入試に出る 読解のための現代文キーワード700(旺文社・大学JUKEN新書)

価格:1,100円(税込)/新書判・320ページ・赤セルシート付
2025年11月12日発売

過去10年の大学入試を分析し、読解に欠かせない700語を20章に整理。頻出度を星の数で示し、章ごとに確認テストを置いています。

Amazonで購入

 
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

現代文と格闘する3訂版 (河合塾series) [ 竹国友康 ] 価格:1415円(税込、送料無料) (2023/3/12時点)

楽天で購入