苅部直『移りゆく「教養」』
2009年度 名古屋大学
問題提起Q
日常語の「政治」に、人はどんな意味をこめているか
二項対立問二問三問五
『政治』をどう考えるかという問いへの二つの答え
活発な市民参加(方針を決め、実行を迫る)
辞典の版:第二版まで=方針を決め実行させる
主体:方針を論議し実行を迫る一般人
欧米思想史:古典古代ポリスの自由人が権力を監視
⇔
権力者による統制(国民の生活を指導・取り締まる)
辞典の版:第三版以降=国民の生活を指導・取り締まる
主体:当局者(政治家・官僚)
欧米思想史:二十世紀、権力の配分を競う(ヴェーバー)
限定両極は固定した二分でなく、つねに揺れ動く 「宿命」は「一面からいえば」の言い方
筆者の主張問四問六
政治の意味は市民参加/権力統制に分裂→欧米概念受容。知恵の再確認で教養深まる。
問一
問一
傍線部a~j モウラ/コクメイ/タンネン/携/ユ/キイ/ジョウヨウ/紐帯/コウシ/イキョ
設問型
漢字・語句
正答
a網羅 b克明 c丹念 dタズサ(わる) e揺 f奇異 g常用 hチュウタイ i行使 j依拠
解き方
・文脈に合う漢字・読みを正確に書く
問二
興味ぶかい例
どのような点が「興味ぶかい」のか説明せよ六十字以内
設問型
どういうことか
本文参照箇所
第二段落、方針を決め実行させる一般人の営み
第四段落、当局者が国民を指導・取り締まる
第六段落、日本人の「政治」観の両極を示す
考え方
語釈が○○から○○へ変わり両極を示す点
興味ぶかい例
同じ辞典の語釈が版によって正反対に入れ替わっている事実
必要要素
・同一の辞典(版の違い)で語釈が入れ替わっている
・旧版は一般人が方針を決め権力者に実行させる営み
・新版は当局者が国民の生活を指導・取り締まる営み
・この逆転が日本人の『政治』観の両極を示す点
問二
興味ぶかい例
どのような点が「興味ぶかい」のか説明せよ六十字以内
模範解答
同じ辞典が政治を、一般人が方針を決め権力者に実行させる営みから当局者が国民を取り締まる営みへ改め、政治観の両極を示す点。
問三
「政治」像の〜命とも言える
なぜか説明せよ百字程度
設問型
なぜか
本文参照箇所
第六段落、市民参加と権力者統制の両極を揺れ動く
第七段落、politicsの翻訳語として常用語化
第九段落、幅をもった概念を一挙にとりいれた
第十五段落、本場の欧米でも定まらず分裂
第十六段落、欧米の言葉の体系を超えられない
考え方
分裂は○○で、○○だから宿命と言える
こうした分裂
市民の活発な参加と権力者の統制という両極を揺れ動くこと
宿命とも言える
欧米自身が分裂を抱えた『政治』概念を、日本人が幅ごと一挙に受容し、その言葉の体系を超えられないから
必要要素
・政治が市民参加と権力統制の両極を揺れ動くこと
・『政治』は近代の欧米語の翻訳語として受容された
・本場の欧米でも『政治』の捉え方は分裂している
・幅=分裂ごと一挙に受容しその体系を超えられない
問三
「政治」像の〜命とも言える
なぜか説明せよ百字程度
模範解答
分裂とは、政治が活発な市民参加とも権力者による統制とも解され、両極の間を揺れ動くことである。欧米でも政治の捉え方は定まらず分裂しており、日本人はその幅ごと翻訳語として一挙に受容し、その枠組みを超えられないから。
問四
まつりごと
抜き出せ二十五字以内
設問型
抜き出し
本文参照箇所
第八段落、和語の意味あいという位置づけ
第十六段落、欧米思想受容以前の日本の政治像
正答
欧米思想を受〜日本の政治像
解き方
・傍線③は和語で欧米由来の「政治」と別物として置かれる
・⇨本文で〈欧米受容以前の日本固有の政治観〉を指す表現を探す
・→第十六段落「欧米思想を受〜日本の政治像」
・※第二版の語釈はまつりごとの言い換えではない
問五
こうした「政治」像
設問型
抜き出し/連続する二文の最初と最後の五文字を記す
本文参照箇所
第十一段落、自由人が法のもとに権力をつくる文
第十一段落、紐帯を保ち権力を監視する文
正答
最初の五文字「自由人とし」、最後の五文字「視を続ける」
解き方
・傍線④は第十二段落冒頭の直前を受ける
・⇨第十一段落は定式化と具体像の二段
・→後半の連続二文が「政治」像を具体的に示す
・※第十段落(ウォーリン紹介)は内容そのものを述べない
問六
政治的教養
どのようなものか説明せよ百字程度
設問型
説明せよ(全文通読)
本文参照箇所
第十七段落、概念化は西欧のみ、営みはどこにもある
第十七段落、共同の営みと権力による支配
第十七段落、概念化されずとも知恵が実践で伝わる
第十八段落、秩序についての思考・実践を伝統として
考え方
政治とは○○であり○○総体
必要要素
・西欧で『政治』と概念化された営みに限らない
・人と人が共同で行う営み、権力者が人々を支配する活動
・そのあり方は文化圏ごとに異なるが人間社会に広く見られる
・概念化されずとも実践で伝えられた秩序の知恵と実践の総体
問六
政治的教養
どのようなものか説明せよ百字程度
模範解答
人々が物事を共同に行う営みや、統治者が権力で人々を支配する活動として、文化圏ごとに異なる形で人間社会に広く見られる営みであり、西欧のように概念化されずとも、実践の中で秩序についての知恵が伝えられてきたものの総体。
教員用
『新明解国語辞典』の版比較について
『新明解国語辞典』は用例採集と執筆者の判断が強く出る辞典で、筆者はそれを『最大公約数』を伝える資料として版比較に用いている。
分裂の背景・傍証
第6段落末:『政治』の意味が安定しないため、ほんらい個人道徳の問題にすぎない政治家の腐敗が『政治問題』の中心として取りざたされてしまう。第5段落:『政治家』項目も第三版で『政見を直接政〜立場に在る人』へ詳しくなり、俗語として『根回しの上手な人』まで加わった。第7段落:『政治』は『詩経』に見える漢語だが前近代の文献では多用されず、近代にpoliticsの訳語として初等教育・新聞雑誌を通じて広まった。第13段落:十六世紀西欧の近代主権国家(絶対君主を頂点とする支配機構)が、ポリスと二十世紀の間の中間項として挟まる。
ウォーリンの三要素について
ウォーリンの『政治的なるもの』三要素(権力の存在・構成員の義務・公共の空間を統括する共通のルール)は、ウォーリン自身の定式化の紹介であり、筆者自身の直接主張ではない(第10・11段落)。
抽象語を歴史化して読む観点
辞書の版による語釈の変遷という具体的・検証可能な資料から、自明に見える日常語を歴史的構築物として読み直す観点。『自由』『個人』『社会』など近代日本語の抽象語一般へ転用できる。本文固有の骨とは別に保持し、本文の主張へ混入させない。
授業の骨
自明に見える日常語『政治』を、同一辞典の版ごとの語釈の逆転から歴史化し、分裂の由来を翻訳語としての受容と欧米自身の分裂へ遡ったうえで、筆者が『政治』の外延を西欧的概念化の外側へ開き、前近代日本の思考・実践を伝統として再確認する提言に至る論運びを追い切ること。
問一 注記
h『紐帯』は辞書の第一表記『ちゅうたい』を正答とし、『じゅうたい』を許容する。
問二 典型的欠陥
両語釈の要素を書き切ろうとし六十字を超える。『変わった』で終え、両極を示す着地点を欠く。
模範解答(全候補)/問二
【Claude・採用】同じ辞典が政治を、一般人が方針を決め権力者に実行させる営みから当局者が国民を取り締まる営みへ改め、政治観の両極を示す点。
分裂の原因についての留保
分裂の原因を一九七〇〜八〇年代の保守化・政党腐敗に帰する見方があるが、本文第6段落はこれを退け、むしろ日本人の『政治』観の両極を示すものと見る。
問三 典型的欠陥
分裂の内容だけで字数を使い、受容史を落とす。抽象論のみで分裂の内容を明確にする条件を満たさない。分裂の原因を保守化・政党腐敗に帰する(本文が退ける)。
模範解答(全候補)/問三
【Claude・採用】分裂とは、政治が活発な市民参加とも権力者による統制とも解され、両極の間を揺れ動くことである。欧米でも政治の捉え方は定まらず分裂しており、日本人はその幅ごと翻訳語として一挙に受容し、その枠組みを超えられないから。
教員用
問四 読みの経緯
Eduは第二版の語釈案を提示したが、Aud独立判断・他社の解答との一致により第16段落『欧米思想を受〜日本の政治像』を採用した。
問五 読み筋
三要素の抽象的定式化(第10・11段落前半)と、それに続くポリスの具体像(第11段落後半)を区別して切り出す。
問六 留保(答案に入れない理由)
欧米由来の『政治』像と非欧米圏の思想文化が『異なる論理によって支えられている』ことをわきまえる必要がある(第17段落)。これは『政治的教養』の条件であり『政治』の定義そのものではないため、百字の答案には入れず口頭で扱う。
問六 典型的欠陥
分裂した輸入概念である、で終え外延を書かない。欧米概念を捨て日本独自の政治観に戻ると誤読する。欧米由来の政治像と非欧米の思想文化を同一視する。
模範解答(全候補)/問六
【Claude・採用】人々が物事を共同に行う営みや、統治者が権力で人々を支配する活動として、文化圏ごとに異なる形で人間社会に広く見られる営みであり、西欧のように概念化されずとも、実践の中で秩序についての知恵が伝えられてきたものの総体。