佐藤淳二『データ・リヴァイアサンの降臨』
2026年度 大学入学共通テスト 追試験 第1問
問題提起Q
われわれにとって「データ・リヴァイアサン」とは何か
「データ・リヴァイアサン」の意味の層
認識論的機械(第一の意味)
存在論的機械(第二の意味)
中心の比喩
ミツバチ・アリ
分身(人造人間・ロボット)
筆者が付けた名
認識論的機械
存在論的機械
問われる水準
価値はどこで生まれるか
自分が自分であるとは何か
現代人の位置
データ収集のセンサー部品
不安と不気味さを負う分身
行き着く先
生産・消費の概念自体が変わる
分身の排除は自己の破滅に帰る
限定二つは対立ではなく累層。第二の意味は第一を置き換えない。
機械は人間と見分けのつかない分身となりつつあり、道具と見る認識を改める必要がある
問1
(ア)巨匠 ①訴訟 ②温床 ③○意匠 ④愛称
(イ)駆使 ①供養 ②細工 ③口伝 ④○先駆
(ウ)遠征 ①○征服 ②制定 ③帰省 ④要請
(エ)狭義 ①競 ②挟 ③○狭 ④恭
(オ)破滅 ①防波堤 ②○読破 ③派出所 ④覇権
問2
傍線部A 真の存在価値だろう
筆者がそのように述べる理由は
本文参照箇所
第1段落 ミツバチの情報伝達〜「真の存在価値だろう」
同段落 「花の蜜が労働の直接の生産物だとすれば……間接的な……情報こそ」
考え方
蜜 …労働の直接の生産物 cf花畑の情報
…共有され活用される間接的な生産物
⇨共有される情報こそが群れの「真の存在価値」
→第2段落以降はデータに取り囲まれた社会の話へ
正答の軸
価値が蜜から共有情報へ移る点と後続の論旨が合う肢を選ぶ
各肢の判定
①×「個別の主体が果たすべき役割についての議論へとつなげるため」本文は個体の果たすべき役割を論じない。役割論へのすり替え。
②×「経済学の分野におけるデータの活用についての議論へとつなげるため」経済学への言及は「もしも一九世紀に…」の反実仮想。本流ではない。
③×「共同体における情報の有効利用についての議論へとつなげるため」続く内容は捕捉・監視の話で有効利用ではない。
④○
問3
傍線部B 最先端のテク〜しつつある。
どういうことか
本文参照箇所
第3段落 「個人が働いている時も病気の時も……大きな価値を生み出しているのかもしれない」
第1段落 「巣箱に蜜を持ち帰るだけでなく……情報とデータを……伝える」
考え方
ミツバチ …蜜を運ぶ、かつ花畑の在処も伝える =現代人
…働く時も病気の時も情報を出す
⇨労働の成果物とは別の役割が重なっている
→無自覚のまま仕向けられ組み込まれている
正答の軸
労働と情報提供が別役割で重なる点が合う肢を選ぶ
各肢の判定
①×「巣に花の蜜を持ち帰り生産物を効率的に集積していくミツバチやアリの姿」蜜の集積と情報提供を混同している
②×「高度に分業化され緻密になった労働に従事させられている現代人」傍線Bの主旨は労働の緻密化ではない
③○
④×「新たな価値を創造しているミツバチやアリの労働の様態」ミツバチは価値創造者として描かれない
問4
傍線部C それがどのよ〜示してみよう
どのようなことを提示しているか
本文参照箇所
第6段落 「自明な自動過程で「処理」される」〜「この傷こそ、ここで「存在論的機械」と呼ぶ」
第7段落 「見分けのつかない分身となりつつある」・ポー「怒りを爆発させ……刺殺してしまう」
考え方
「それ」 …直前の一文の「この傷」 =存在論的機械
→自分であることは自明な自動過程
→だがあやふや・傷がある ⇨現状
…われわれと機械は見分けのつかない分身になりつつある
⇨例
…似すぎた相手への不安(フロイト)・怒りと刺殺(ポー)
∴提示されるのは、自己了解に入る亀裂そのもの
正答の軸
「それ」=存在論的機械=自己了解の亀裂を指す肢を選ぶ
各肢の判定
①○
②×「違和感や執着のありよう」「執着」は本文に根拠がない「自分と等価であろうとする分身」本文の記述と異なる
③×「焦りや怒りのありよう」劣等感・優劣は本文にない「分身に劣等感を覚える文学」本文の感情は不安と不気味さ
④×「あまりにも自己の存在と同一化している機械へ抱く警戒心や危機感」本文は自己了解の亀裂を示し、機械への警戒・危機感ではない
問5
この文章の表現に関する説明は適当でないもの
考え方
傍線C …「分身のメタファーを用いて提示してみよう」
→筆者の手続きは「提示」であって「証明」ではない
cf挙例
…ロボット工学(1970年代)・ポー(1839年)・芥川・ネルヴァル
∴「近代より前から」も「論理的に証明」も本文と合わない
正答の軸
各肢の指す本文箇所に戻り成立を確認し傷のある肢を選ぶ
各肢の判定
①○
②○
③○
④×「近代より前から抱えてきた」分身の不気味さの例は近代以降に限られる「論理的に証明しようとしている」本文は「提示してみよう」と述べるのみ
問6(ⅰ)
どのようなものとして考えているか問題冊子の【資料】を参照
考え方
データベース …記録するだけ、「記憶」を持たない
cf人工知能 …データ相互を自ら関係させ、深層で学習する
⇨もはや道具ではなく、他者・主体・分身
∴環境に単に属さず、われわれと同じ「世界」を形成しうる
→人間と同じく、取り巻くものを自ら作り変える存在
正答の軸
道具から自ら学ぶ主体へ、受け身から世界を作る側へ
各肢の判定
①○
②×「将来的に人間を支配しかねない超越した存在」支配の脅威は資料にない
③×「記憶の領域を持つものとして進化」資料が言うのは学習(関係づけ)である「人間を補完する存在」主体・分身という位置づけと合わない
④×「この先の世界について見通すその能力」資料は「新しい展望を生成する」で、未来を見通す力ではない「人間とともにひとつの世界を作りあげていく」資料は人間と同じく世界を形成しうる他者とし、共同とは言わない
問6(ⅱ)
全体の趣旨は問題冊子の【資料】を参照
考え方
本文 …日々の営みから情報が集められている(指摘)
⇨資料
…機械はもう道具ではないと「認める必要がある」(要求)
∴指摘と認識の更新の要求で終わる
cf本文は解決策・利用法・逃げ方を提案していない
正答の軸
指摘と認識更新の要求を両方含み処方箋を加えない肢
各肢の判定
①×「現代テクノロジーとの共存のヒントを提出しようとしている」共存の方法は提示されていない
②×「情報の網の目から逃れうるのかという方法を提起しようとしている」逃れる方法は本文にない
③○
④×「データをどのように利用していくかということを提案しようとしている」利用法の提案はしていない
教員用
授業の骨
「データ・リヴァイアサン」の二層(認識論的機械/存在論的機械)を区別して追跡し、資料のAI=主体・分身への延長までを一本で読み通す。
転用可能な観点
キーワードの初出の意味で理解を固定せず、意味の層が後から重ねられていないかを追跡する。本文固有の骨とは別の、別教材にも使える読みの観点。
ホッブズの二度の登場
ホッブズの「リヴァイアサン」は本文中で二度使われている。一度目は国家の隠喩(近代国家論の文脈)、二度目は近代的自己の構造化(デカルト・ホッブズ・スピノザが与えた構造)の文脈。表の比較軸には立てず、口頭で補足する。
冒頭の映画導入
エリセ『ミツバチのささやき』の少女と人造人間の幻という導入は、本文冒頭と末尾を結ぶ枠だが、二層構造の理解には必須ではないため口頭で触れる程度でよい。
問2の誤答解説補足(反実仮想のアサイド)
「もしも一九世〜かもしれない」という一文は反実仮想であり、本文の主旨である情報の価値転換の本流ではない。選択肢②はこの一文を過大評価した誘導である。
不気味の谷・フロイト・ポーの機能
森政弘の「不気味の谷」現象、フロイトの分身論、ポー「ウィリアム・ウィルソン」の三例は、いずれも「自分に似すぎた他者への不安」という同じ機能を持つ具体例であり、問4・問5の考え方の裏付けとして使う。人名・年代の詳細は授業の口頭補足に留める。
分身論の前置き
「稠密な連続体〜む余地がない」「精神は断片化〜嵌されている」という一節は、分身論の入口となる前置きであり、独立表示はせず口頭で触れる。
問4の正答は教師確認待ち
問4はAud・Eduの判断が分かれた(④説と①説)。Orcは傍線Cの指示語「それ」が二段落前の「この傷」(存在論的機械)を指すという原典根拠により①で確定したが、公式正答との照合は未了。公式正答が④であった場合は、考え方・各肢の理由を作り直す必要がある。
不気味の谷・フロイト・ポーの機能(再掲)
森政弘の「不気味の谷」現象、フロイトの分身論、ポー「ウィリアム・ウィルソン」の三例は、いずれも「自分に似すぎた他者への不安」という同じ機能を持つ具体例であり、問4・問5の考え方の裏付けとして使う。
問5③のずれについて
③の「国家・社会と個人との関係」という記述は、第6段落の三思想家(デカルト・ホッブズ・スピノザ)が論じた文脈(自己同一性の構造化)とは厳密には一致しない。正答は④で確定しているが、③のこのずれは口頭で補足する。