野々井透「棕櫚を燃やす」
2025年度 大学入学共通テスト 追試験 第2問
現在木蓮の花びらが落ちる、澄香帰宅後の庭先の午後
どこ私・澄香・父が暮らす家の庭(木蓮・棕櫚)
だれ春野=私。転職を重ね、現職は3年目
澄香。妹。美大卒。現職3年目で最長
父。些細な事を褒め、どの生き方も受け入れる人
心情の変化問2問4
みんなのふつうの中が安楽に思えつつ、信念を持つことを恐れる
 ⇨父の「さもありなん」=そんなこともあるだろうさ
 ⇨くっつき過ぎ〜に隙間ができ、執着を手放して楽になる
二項対立
私の中にある二つの傾き
みんなのふつうの中へ
自分のふつうを通す側へ
寄っていく先
破れそうな球体の中が安楽に思える
自分のふつうを優先しがち
引き止める思い
脆いと知っていてなお流される
誰かへの暴力になるのではと恐れる
限定この板挟みの解消は本文末尾でも明示されない。父の受容は解決ではなく距離を与える
ふつうと信念の恐れ⇨父の「さもありなん」で執着を手放す
問1
きらいのある
①特色ある性質を持つ
②気まぐれな性格を持つ
③○好ましくない傾向を持つ
④人目につく特徴を持つ
やたら
①急に
②○極端に
③確かに
④妙に
はす向かい
①○斜め前
②真正面
③隣り合わせ
④背中合わせ
問2
傍線部A 危険な装置のようで、呪いの文句のようだ
「私」がそのように考える理由は
本文参照箇所
球体の比喩…崩れやすく確かでない性質を示す
分かっていても安楽に流れてしまう心の動き
考え方
比喩を本文の記述に戻す ⇨「すぐにでも破れそうな球体」
=確かでない ⇨「脆いのを知っているのに安楽」
=易きに流れる ⇨「呪いの文句」
=意識や行動が縛られる
→不確かさ・流される傾向・制約の三点で肢を切る
正答の軸
確かでなさ・易きに流れる・知らぬ間の制約の三点が揃うか
各肢の判定
①×「少数派への優越感を生じさせる」優越感は本文に記述がない
②×「内向的な性質をより強める」性質を強めるという記述は本文にない
③×「受け入れることを強いる」強制されているという記述はない「感性を少しずつ鈍化させていく」鈍化という記述はない
④○
問3
傍線部B 澄香は仕事や〜ちに話した。
話をすることにはどのような意味があるか
本文参照箇所
傍線部直後…話すことは納得するための方法
次の一文…肯定的に納得して進みたい人
考え方
傍線部の直後に機能が書かれている
⇨「世界を納得するための彼女の方法」
⇨「肯定的に納得しながら、進みたいひと」
→特定の職場への対処ではなく一貫した生き方の方法
→受けとめる/前向きに進む の二点で肢を切る
正答の軸
話すことは世界を納得して前向きに進む方法
各肢の判定
①×「熱意が維持できない自分を克服して」克服という記述は本文にない
②×「私や父に伝えようとしている」目的が伝達にずれており本文の記述と異なる
③○
④×「不満を取るに足らないものとして」不満の軽視ではなく肯定的な納得が本文の趣旨
問4
傍線部C 水越しに見る〜で見えてくる
このように世界を見る「私」についての説明は
考え方
傍線部は二層
…「ぼやけた」(もと)+「さらに」(増幅)
⇨もとの隔たりはどこに書かれているか
⇨「あまり興味の〜話していると」
⇨「体温が低くな〜類になりたい」
→同調し続けて本来の自分から離れ、隔たりが広がる
cf納得できなくなるのは澄香。私にすり替えない
cf出汁巻きたまご・駐車は父が褒める例の列挙
正答の軸
同調を続け本来の自分から離れ隔たりが広がる
各肢の判定
①×「興味を持とうと懸命になる」本文は興味のない話に合わせている、逆の内容「人との関わりにますます消極的になってしまう」消極化の記述は本文にない
②×「納得がいかなくなり」納得できなくなるのは澄香であり私ではない「勤め先からも逃げ出そうとしてしまう」逃げ出す記述は本文にない
③○
④×「疎外感をいっそう覚えてしまう」本文は無関心・距離の比喩であり疎外感の記述ではない
問5
傍線部D だから父のさ〜してくれる。
人物像と、その父に影響された「私」の変化は
本文参照箇所
姉妹の職歴への発言…働き続ける点を評価
主任の暮らし方への発言…特別視せず受けとめる
父の言葉の効果…執着から距離ができる
考え方
父の言動を二つ集める ⇨姉妹の職歴
…「それでも働き〜出来じゃない」 ⇨主任の暮らし
…「それが主任さんたちのふつうなんでしょう」
→価値判断を加えず、あるがままに受けとめる人
次に効果の強さを測る
⇨「隙間ができて」「ついと手放してしまう」
→距離をとれるまで。自己像の受容までは書かれていない
正答の軸
あるがままの受容…執着から距離をとれるようになる
各肢の判定
①×「物事を積極的に肯定しようとする人物」さもありなんは肯定ではなく判定しない受容である
②×「話もさりげなく打ち切るように」打ち切る記述は本文にない「冷静に問題に向き合うことができるようになる」向き合うのではなく距離をとるのが本文の趣旨
③○
④×「ありのままの自分を受け入れられるようになる」本文の『手放して楽になる』より強い表現
問6(ⅰ)
空欄X
空欄補充問題冊子の【ノート】を参照
考え方
括弧の中身を二つ並べる
⇨「本当に外壁に下げられているのだろうか」
…内容への疑問 ⇨「と、澄香が言う」
…出所を澄香に戻す注記
→どちらも、聞いた話をそのまま事実としていない印
cf①と④は否定している対象が違う
cf④は「疑いの念をもっていない」。括弧に疑問が現にある
正答の軸
括弧は語り手の留保…事実としては受け取っていない
各肢の判定
①○
②×「冷静に分析している」分析という記述は本文にない
③×「三人で楽しむための手段」手段という位置づけは本文にない
④×「疑いの念をもって聴いているわけではない」括弧に疑問が現にあるため成り立たない
問6(ⅱ)
空欄Y
空欄補充問題冊子の【ノート】を参照
考え方
三つの抜き出しを性質で分ける ⇨28~31行
…昨日も今日もなくなり、関係も取っ払われる
⇨34~35行・47~53行
…行ったことのない場所、会ったことのない人
⇨「これは私の想像だけど」
→離脱の心地よさ+想像による別世界
cf規範(あるべき生き方)や決意(刻み込む)は書かれていない
正答の軸
現実からの離脱の心地よさ…想像による別世界を持つ
各肢の判定
①×「心のよりどころとしていつも大事にしている」よりどころとして常に重視するとまでは言えない
②×「自分の心に刻み込もうと意識している」そうした意識は本文に書かれていない
③×「自分のあるべき生き方が示されていると考えて」規範として受け取る記述は本文にない
④○
教員用
授業の骨の選定
骨は、二方向の不安→父の受容→手放して楽になる、という変化である。澄香と私の対照は副構造として問3・問4で扱う。『ふつう』の四用法は気づきとして扱う。背景知識のうち、文学史・近代/ポストモダン論の層は本文細部の説明を増やさないため不採用とした。
口頭補足
「はす向かい」は斜め向かいの意。同調も離脱もしない位置取りの比喩。「水越し」は冒頭の『魚類になりたい』と響く。出汁巻きたまご・駐車・忘れ物は父が褒める例であり、私の失敗の列挙ではない。父の二つの発言は機能が違う。『上出来じゃない』の後には揺り戻しが続く。
背景知識
2023年発表。不安定な職歴の反復、『ふつう』への同調圧力、信念を持つことへの気負いという現代的主題を扱う。事件のない随想的構成で、反復するモチーフの積み重ねによって主題に至る。
転用可能な気づき
評価も判定もしない受容は、同調圧力と自分の執着の両方から人を少し自由にする。板挟みを解くのは正しい答えの提示ではなく無条件の受容である。
問1の扱いについて
本設問は漢字・語句のみの選択式であり、上流(Res・Edu・Aud・Orc)の読解分析を経ていない。問題一式から直接作成した(先生の判断2026-09-27)。
問4の注意
三役の判断は問4で割れた。②は澄香の症状を私にすり替え、かつ本文にない『勤め先から逃げ出そうとする』を加えているため誤りとした。最終的にAudの独立解答を採用し、Eduの②判定は棄却した。
問5の注意
主題を『ありのままの自分を受け入れる』へ強めて読むと④を誤って選んでしまう。父の受容が与えるのは執着からの距離であり、自己受容の完成ではない。
問6(ⅰ)の注意
①と④はいずれも『疑い』に関する記述だが、否定する対象が異なる点が弁別点である。④は『疑いの念をもって聴いているわけではない』と否定するが、括弧には疑問が現にあるため成立しない。①はそのまま事実として受け入れていないという留保を示し、本文の括弧の機能と一致する。
問6(ⅱ)の注意
③『あるべき生き方が示されている』と④『異なる世界を持ち得ている』は文言が近い。③は規範として受け取る記述、④は想像による別世界の保持であり、本文に規範の記述がないことから④に決める。公式正答表による最終確認が望ましい。