田中大介『待ち合わせの変容』
2025年度 大学入学共通テスト 追試験 第1問
期待の期待の無限後退→会うことはいかにして可能か
「待つこと」への向き合い方の時代推移
戦前〜戦後のある時期まで
一九八〇年代以降
「待つこと」の意味
切なく、美しいもの・不安と忍耐の経験
軽やかな記号的イメージの戯れ
ハチ公像の位置
不確定性に耐える受動性の空間的象徴
対抗してモヤイ像が置かれる
待ち合わせ場所
最も知られた指標としてのハチ公像
記号的イメージの演出される舞台として量産
限定戦後に独立した反転段階は戦前〜戦後のある時期までと一九八〇年代以降の間に挟まる。
近代は個別化で待ち合わせを要請、受動性から消費へ転換
問1
(ア)依拠 ①唯々 ②天衣 ③威風 ④○依然
(イ)偶然 ①遭遇 ②○土偶 ③寓話 ④一隅
(ウ)真剣 ①冒険 ②○剣道 ③検挙 ④謙虚
(エ)滞留 ①帯 ②貸 ③○滞 ④怠
(オ)増殖 ①服飾 ②○養殖 ③寝食 ④物色
問2
傍線部A はたして「会うことはいかにして可能か」。
このような表現で問いを投げかける理由は
本文参照箇所
第1段落「期待の期待」の無限後退(相互依拠の構造)
第2段落 秩序問題と「社会秩序はいかにして可能か」
第2段落 二重の不確定性(両すくみ)の定義
第2段落 社会の底が抜けている不安の囁き
考え方
相手が来る期待は、相手の期待に依拠する
∴期待の期待として相乗化し、無限後退する
⇨この構造は秩序問題と同型
∴待ち合わせの不安は社会の成立条件そのものの問題
正答の軸
不安を社会の成立条件の問題へ接続しているか
各肢の判定
①○
②×「やむを得ず実践されてきた」本文はやむを得ず実践されるとは述べていない「学術的にはその自明性が疑われてきた」本文は学説史上の疑いではなく社会の自明性の底が抜けている可能性を述べる
③×「期待と不安という感情が入り交じっている」相互依拠の構造を感情の記述に縮小している「期待と不安を持ちながら人間関係を築いていかなければならない」本文にない心構えの話にずらしている
④×「相手の行為への信頼」本文の語は期待であり信頼ではない「人と人との信頼関係なしには社会秩序は維持できない」本文は信頼関係の必要性ではなく行為の成否の相互依存を述べる
問3
傍線部B 待ち合わせと〜わけではない
その理由の説明は
本文参照箇所
第7段落 共同体は活動パターン・範囲が限定的
第7段落「待ち合わせの必要性はあまり高くないだろう」
第8段落「共通の指標をもとに時間―空間を合わせる」
第8段落「コミュニケーション形式として要請される」
考え方
共同体は所在地・時間パターンを把握・予期しやすい
∴待ち合わせの必要性は高くない
⇨活動範囲が分化した社会は相互の把握・予期が難しい
∴共通の指標(クロックタイムとランドマーク)で時空を合わせる必要
∴自立したコミ〜て要請される
正答の軸
必要性を分けるのは場所の機能ではなく把握・予期の可否か
各肢の判定
①×「それらの機能とは別に待ち合わせにふさわしい場所を設定する必要がある」本文の軸は場所の機能分化ではなく相互の把握・予期の可否である「改めて待ち合わせのための「中間地点」を設定する必要がないから」共同体で中間地点の設定が不要だとは本文にない
②×「他の活動をともなった複雑なコミュニケーションとしての待ち合わせが行われるから」共同体は必要性が高くないと述べるのみで複雑な形は述べない
③×「各人が移動を最小限にするための待ち合わせ場所を設定する必要がある」移動の最小化は本文にない「待ち合わせをするよりも訪問する方がより効率的といえるから」本文は訪問と待ち合わせを区別するのみで効率を比較していない
④○
問4
傍線部C しかし、戦後〜がみられる。
「ハチ公神話」の「変化」は
本文参照箇所
第11段落「正誤ではなく、なぜ…普及したのかだろう」
第14段落「不確定性に耐える受動性」の空間的象徴/もっともらしく思わせていた
第16段落「美しさではなく、執着とされ、反転する」
第16段落「この感覚の延長線上にある」
考え方
問題は正誤ではなく、神話が普及した理由
…戦前〜戦後は『待つこと』のリアリティが神話を支えた
⇨一九六八年、『忠犬よ』への嫌悪が記事に現れる
→『待つこと』は美しさでなく執着とされ反転する
∴忠犬=ハチ公神話のもっともらしさが薄れる
cf動物=ハチ公の対抗神話は、この感覚の延長線上にある
正答の軸
変化を神話の象徴性の喪失と捉えるか、対抗神話の創出と捉えるか。
各肢の判定
①×「真実性を持った神話として普及していった」本文は正誤の論点を退けている「「忠犬=ハチ公」神話の信頼性が疑われるようになった」変化を真偽・信頼性の問題へずらしている
②×「焼き鳥に対する執着と捉える人が増えるにつれて」本文で執着とされるのは待つことであり焼き鳥への執着ではない「「動物=ハチ公」神話がもっともらしいものとして受容されるようになった」本文はこの感覚の延長線上にあると述べるのみで受容されたとは述べていない
③×「「動物=ハチ公」神話が対抗神話として作られていったということ」本文は異説として既存に示し延長線上にあると述べるのみで創出の因果を述べていない
④○
問5
傍線部D 待ち合わせは〜ったのである
どういうことか
本文参照箇所
第14段落「不確定性に耐える受動性」(前の状態)
第18段落「軽やかな記号的イメージの戯れへと転換し」
第18段落 演出される舞台として量産される場所
第19段落 無名の空間が待ち合わせ場所として作られる
第19段落 流行のコードで場所が選択される
考え方
以前は相手が来るか分からぬ不確定性にじっと耐えた
⇨一九八〇年代、場所が演出され量産・増殖する
→流行のコードで場所が意味付けされ選択される
∴不確定な時間そのものを楽しむ消費へ転換した
正答の軸
不確定な時間そのものを楽しむ対象になっているか
各肢の判定
①×「象徴的な意味を持った待ち合わせ場所がファッショナブルな演出によって新しく意味付けし直されていく」既存の象徴的場所の再意味付けではなく新たな空間の生産である「待ち合わせという状況を消費していく」不確定性そのものを享楽するという核心が外れている
②○
③×「相手と待ち合わせ場所で遊ぶことまでを目的とする行為になった」待ち合わせは中間であり場所での遊びの目的化は本文にない
④×「待つこと自体を楽しむ能動的な行為になった」核心語の不確定性を待つこと一般に置き換えている「有名な待ち合わせ場所で相手を待ち続けるだけの」有名な場所という前提が本文の無名の空間の生産とずれる
問6
本文の表現上および構成上の特徴は適当でないもの
考え方
①新聞の引用は当時の感性を参照できる
②本文冒頭で待ち合わせの意味を限定している
③ハチ公像で捉え方の歴史的変遷を示す
∴①〜③は本文の実際の構成と一致する
⇨④は研究者の見解を挙げるが多様な結論ではない
∴本文は単一方向の論に収束し、④の記述は本文と食い違う
正答の軸
複数の研究者名・具体例と複数の結論の提示を混同していないか
各肢の判定
①○
②○
③○
④×「提起した問いに対する多様な結論を示している」本文は単一方向の論に収束し複数の結論を並立させていない
教員用
授業の骨
問題は神話の真偽ではなく、なぜもっともらしく広まったのかという転換を軸に置いた。第11・14・16・18・19段落の推移を一本の骨として選び、個々の新聞記事は従属させた。中心の推移は三段階(①戦前〜戦後のある時期まで→②戦後の反転→③一九八〇年代以降)。板面は①と③を両極として示し、②は限定文に示す独立した価値反転の段階である。②の『待ち合わせ場所』欄は本文に記述がないため空欄とする。
転用可能な気づき
場所の意味は、その時代の感性によって書き換えられていく。この教材固有の骨とは別に、他の教材でも使える観点として残す。
秩序問題の系譜
ホッブズの自然状態と社会契約、パーソンズの二重の不確定性、ルーマンへの展開。本文が自ら説明しているため、授業では本文の語を優先し、外部の理論内容を上乗せしない。
注6による射程の限定
冒頭のハチ公ポスターの謎(かつては今より人気者だった、の意味)は、この抜粋より後のケータイ論で扱われ、本文内では答えが出ない。生徒が本文にない結論を作らないよう、口頭で『ここでは答えが出ない』と伝える。
口頭補足
ハチの来歴(上野英三郎・大正一四年の死去・昭和七年の新聞記事・昭和九年の銅像・昭和一一年以降の慰霊祭)と、死後に胃から発見された焼き鳥串の異説。筆者の論点は真偽ではないことを添えて話す。
問1について
漢字・語句のみの設問のため、本教材の読解分析の対象には含めていない。問題本文から直接、誤答を含む全肢の漢字を確認して作成した。正しい漢字は、ア=依拠、イ=偶然、ウ=真剣、エ=滞留、オ=増殖。
弁別点
相互依拠の構造(社会の成立条件)として読めているか、感情・信頼(心構え)の語に流れていないかを見る。③の感情語、②④の本文にない語(信頼・学術的に・やむを得ず)に注意する。
作問者採用解釈
待ち合わせ固有の構造的不確定性が、社会秩序の成立をめぐる問題と同型であることを強調するための問いかけ、という解釈を採る。本文の自然な読みと一致する。
弁別点
必要性を分ける要因を相互の活動の把握・予期の可否と捉えているか、場所の機能や効率にずらしていないかを見る。①は場所の機能、③は移動の効率、②は共同体側の記述が逆。
補足
傍線Bの『中間的な』は、待ち合わせの定義(別の場所にいる身体が中間地点で場を共有する・訪問と区別される)に由来する。生徒が共同体の生活を具体的に想像できないと①③に流れやすい。
正答の確認依頼
③(嫌悪する新しい感性によって動物=ハチ公神話が対抗神話として作られていった)と④(忠犬=ハチ公神話の象徴性が薄れていった)が接近する。本解説は、第11段落が対抗神話を既存の異説として示し第16段落が延長線上にあると位置づけるのみであること、第14段落が神話のもっともらしさの由来と戦後のある時期までという時期限定を与えることから④を採用した。授業前に公式の正答と照合すること。
教員用
作問者採用解釈
『待つこと』の意味が美から執着へ反転したことで、忠犬神話を支えていたリアリティが失われた、という神話の受容条件の変化として採る。
弁別点
楽しむ対象が成否の不確定な時間そのものか、待つこと一般や場所での遊びにすり替わっていないかを見る。第14段落の『耐える受動性』と第19段落の『戯れる』を並べて、同じ語(不確定性)への構えの違いで肢を切らせる。
弁別点
複数の研究者名・具体例が出ることと、複数の結論が示されることを混同していないかを見る。新聞引用を雑多な意見の列挙と読むと④を妥当と誤判定しやすい。『適当でないもの』を選ぶ設問であり、板面の判定は○=適当な記述、×=傷のある記述、選ぶ肢は×の④。