大塚英志『『江藤淳と少女フェミニズム的戦後』』/西兼志『「コミュニケーションのvectorとしての〈キャラ〉」』
2024年度 大学入学共通テスト 追試験 第1問
問題提起Q
記号のキャラクターはなぜ広がり、思い入れを呼ぶか
キャラクター(的形象)はどの水準の記号か
【文章Ⅰ】意味を廃した人工の記号
【文章Ⅱ】〈顔〉的な指標記号
記号の性格
意味づけを廃した人工言語=単語
人称化=ヒト化した〈顔〉的形象
文脈との関係
文化的固有性を拒んだ国際語
指標=一回的な文脈での直接的接触
個別性
感情も含め記号の集積に還元=個別性なし
―
読み手の思い入れ
手塚は読み手の思い入れを拒むように語る
受け手…〈顔〉に無条件に引きつけられる
帰結
記号としての設計と汎世界化は不可分
企業・作品と無関係に自立して発展する
限定左…手塚の設計した記号、右…〈顔〉としてのキャラ 合わせて読むのが問6の主題
記号ゆえに世界へ広がり、〈顔〉ゆえに人を引きつける
問1
(ア)純粋 ①盛衰 ②推測 ③○粋 ④垂直
(イ)拘束 ①抗議 ②交渉 ③○拘泥 ④巧妙
(ウ)隆盛 ①○隆起 ②時流 ③建立 ④留意
(エ)提唱 ①発祥 ②○合唱 ③無償 ④暗証
(オ)薄命 ①博識 ②拍車 ③迫真 ④○薄弱
問2
傍線部A そこでは一人〜存在しえない
筆者がそのように述べる理由は
本文参照箇所
第3段落。属性の組み合わせで人間が作られる流れを確認
同段落末尾。個別性が記号の集積に消える結論を確認
考え方
傍線の直前を見る
⇨表情も、男女・民族・年齢も、どちらも「記号」
⇨それが任意に組み合わされて一人の人間になる
∴残るのは類型の束で、その人だけのものは残らない
cf手塚にとって画は「お話をつくる道具」
正答の軸
類型化された記号の組み合わせであること+物語のための道具であること
各肢の判定
①×「任意の人間集団の特徴を体現したもの」「任意」は組合せ方の話。「体現」は本文にない
②×「デッサンの技術に基づくことなく自己流」技術の話を理由にすり替えている。傍線の理由は記号の組み合わせ
③○
④×「驚きや怒りなどの感情を単純な線の集合で」感情の記号化だけで、属性の組み合わせによる還元が落ちている
⑤×「細部の具体的な描写の集積」「非常に省略しきったひとつの記号」と正反対
問3
傍線部B 〈記号〉とし〜たのである。
筆者がそのように述べる理由は
本文参照箇所
同段落。固有性を拒んだ国際語という位置づけを確認
同段落。筆者の留保(否定しない)に注意
考え方
まんが記号は文化や民族の意味づけに拘束されない
⇨手塚は非「日本語」として設計していた
∴固有の歴史・文化と結びつかないことが、広がりと結びつく
cf筆者は「アメリカニズムにすぎない」説も否定していない(留保)
正答の軸
固有の歴史・文化と結びつかない表現の追求が、国際的な受容と無関係ではないこと
各肢の判定
①×「探求した成果である」「成果」と言い切り、本文の留保を超える
②×「定型をふまえた登場人物や物語」物語の定型化は本文にない
③○
④×「読者を意識した作品作り」読み手を意識、は本文と逆の内容
⑤×「ジャパニメーションヘと発展した」筆者が批判的に触れる別の論点
問4
図2の(a)~(e)についての説明は適当でないもの
考え方
三層を先に確定する
(a)象徴 =社会的な規約・脱文脈的
(b)類像 =いまここを超えるが直観的訴求力は残る
(c)指標 =接触・一回的な文脈 ⇨(d)上向き
…個体の成長・文化の進展 ⇨(e)下向き
…複製技術としてのメディアの変遷
正答の軸
(d)は個体・文化、(e)はメディアの向き
各肢の判定
①○
②○
③○
④×「図像や文字といった直観的なメディアの運用を促し」文字は象徴=非直観的。(d)は個体・文化の向き
⑤○
問5
傍線部C 〈キャラ〉は〜たものである
どういうことか
本文参照箇所
傍線C直前。ロゴが象徴の次元に担保される点を確認
別段落。〈キャラ〉が企業・作品と無関係に自立する点
考え方
「そのような担保」
=象徴の次元(ブランド名の文字要素)
ロゴ …文字の洗練で象徴に接する
⇨企業・商品との関係が残る ⇨〈キャラ〉
=ヒト化した形象 ⇨その担保を離れる
∴接した人との直接的な関係が生まれ、企業・作品と無関係に発展する
正答の軸
ロゴ…象徴で企業と結合/キャラ…ヒト化で自立
各肢の判定
①×「消費者が既存の企業イメージを更新する」本文にない
②○
③×「情報を伝達するための道具として機能する」交話的=情報伝達を目的としない、と正面から食い違う
④×「それ自体が独立したシンボルとして流通する」自立するのは〈キャラ〉の側。担保関係が逆転している
⑤×「同一の情報を伝達することができる」ロゴの担保を情報伝達へずらし、〈キャラ〉側も本文の対応箇所を欠く
問6(ⅰ)
空欄X
空欄補充
考え方
【文章Ⅰ】の中心 …人工言語的性質 ⇨汎世界化
=普遍性
【文章Ⅱ】の中心 …指標的性質 ⇨自立性
⇨「固有性」と書いた肢は本文と逆
⇨類像はロゴと共通で、両者を分ける性質ではない
正答の軸
Ⅰ=人工言語的性質に基づく普遍性/Ⅱ=指標的性質に基づく自立性
各肢の判定
①○
②×「固有性」Ⅰは固有性を拒絶している「類像的性質」類像はロゴとも共通の性質
③×「固有性」「個別性はけっして存在しえない」と逆
④×「類像的性質」類像はロゴも共通、両者を分けない
問6(ⅱ)
空欄Y
空欄補充
考え方
赤ん坊も大人も〈顔〉に反応する
⇨悪条件では顔でないものまで顔に見える
∴反応は学習ではなく無条件
⇨結果として引きつけられてしまう
正答の軸
〈顔〉への反応の無条件性と、その結果としての牽引
各肢の判定
①×「自らの姿を投影することができる」投影は本文にない
②×「モノとの関係を断ち切るはたらきがある」モノとの切断は〈キャラ〉の性質のすり替え
③×「〈キャラ〉と対話することができる」交話的は接触の確認で対話ではない
④○
問6(ⅲ)
空欄Z
空欄補充
考え方
Zは二つの文章を合わせた結論 ⇨Xで決めた中心へ戻る
Ⅰ側 …普遍性
Ⅱ側 …指標的性質
⇨肢の「AとBを兼ね備える」の両側を別々に照合
Ⅰ側 …特定の文脈を超えて広く流通し得る性質
Ⅱ側
…受け手がそれぞれの接触の場で親しみを抱き得る性質
∴手塚が拒んだのに思い入れが生まれるずれは、この二面の共存のあらわれ
正答の軸
Ⅰ=脱文脈的に広く流通し得る性質/Ⅱ=受け手ごとの文脈で親しみを抱き得る性質
各肢の判定
①×「日本固有の文化的な特徴」文化的固有性は本文が否定している「個性的な特徴」個別性の否定と食い違う
②×「読者が愛着を示すことができる人間的な部分」個別性を認める形になり本文と食い違う「機械的な部分」Ⅰの中心(普遍性)ではない
③○
④×「ストーリーを構成する要素」本文の理論的主張と対応しない「作品を代表するもの」同上、別の軸
教員用
背景知識:アメリカニズムの汎世界化という留保
筆者は、まんが記号の汎世界化を『アメリカニズムの汎世界化にすぎない』とする見解も否定していない。ジャパニメーションの国際的評価を日本文化の世界化と同一視する、おたく文化とナショナリズムの結託への批判として、この一節が置かれている。
口頭補足:作者の特権性の放棄
【文章Ⅰ】の結びは、記号の人工性が同時に『作者の特権性の放棄』でもあるという第二の帰結。手塚は自らの個性を無個性な記号へ還元することで、作者としての特権を手放してみせた。
口頭補足:記号のピラミッドの応用例
記号のピラミッドは、ロゴ・ブランド・SNSのアイコンなど、身の回りの『顔的な記号』にも当てはめられる。ただし本文を超えた一般論として板面には出さない。
転用可能な気づき:複数テキスト設問の解き方
複数テキスト・会話文の設問では、各文章の中心主張を先に一文で確定し、『AとBを兼ね備える』型の肢は両側がそれぞれどちらの文章の中心に当たるかを本文の語で照合する。会話文中の印象的な語をそのまま使った肢は、内容の対応ではなく語の一致にすぎないことがある。
骨の選定記録
傍線A・B(Ⅰ)と傍線C・〈顔〉の段落(Ⅱ)が問6でX→Y→Zとして組み直される。個別の設問技術ではなく、記号のピラミッドを共通の物差しに二つの文章を重ねる操作を骨に据えた。
軽量AI素解きとの比較
一般のAIによる素解きは、問6(ⅲ)で会話文の『思い入れ・愛着』と語が重なる②を選びやすい。四役後の読解では、X・Yで確定した各文章の中心と指標の規定(一回的な文脈での接触)へ戻して③を採った。
注意:「適当でないもの」の判定
問4は『適当でないもの』を選ぶ設問。板面の○は適当な記述、×は傷のある記述であり、選ぶ肢(正答)は×の④。
図2(a)〜(e)の割り当てについて
図2は図中に文字を持たない。三層(指標/類像/象徴)と二本の矢印((d)個体・文化の成長の向き/(e)メディアの変遷の向き)の対応は本文記述から一意に割り当てたものであり、図自体だけでは確定しない。
注意:正答の確定経緯(②→③)
問6(ⅲ)は上流の案(②)から③へ改めた。理由は、②の『人間的な部分』がキャラクター自身の個別性を認める形になり【文章Ⅰ】と食い違うこと、『機械的な部分』がXで確定した【文章Ⅰ】の中心(普遍性)ではないこと。正解表と照合済み。