樺山紘一「情報の文化史」
2016年度 京都大学 前期
問題提起Q
マイクも印刷術もなかった時代、人びとはどうやって意思を通じ合っていたのか
二項対立
機械的手段なしでの情報伝達は成立するか
予想
記録が示す実際
機械的な手段がない条件での伝達
文書も拡声手段もなければ、正確な伝達は絶望的だ
肉声の通信はかなり効果的に行われていた
受け手の理解
不正確な理解のまま感動したり侮蔑したりしていたはず
音のすべてを一つ一つ聞き分ける耳をもっていた
限定「予想」は冒頭の想定で、第3段落『だが…』以下で覆る
筆者の主張問一問二問三
技術でなく、媒体固有の洗練が情報を正確に伝えた
問一
傍線部(1) 雑音・騒音というべきものはありえなかった
どのようなことを言っているのか説明せよ問題冊子の【三行】を参照
設問型
どういうことか
本文参照箇所
想像するとこ〜ませていた。……
音声ひとつひ〜のであろう。
考え方
音は○○のに、耳が○○から、○○はなかった
まず確かめる …音源は少なかったのか
本文 …家畜・子供・乞食・鐘が雑然と飛び交う
⇨音は多い。少ないから雑音がないのではない
では何が違うのか …受け手の耳
本文 …音と声のすべてを一つ一つ聞きわける力
⇨一つ一つが意味をもつ音として届いていた
→多くの音があっても、無意味な音の塊にならなかった
必要要素
・多様な音が同時に飛び交う環境であったこと
・現代人とは段違いに鋭い聴覚で音を子細に聞き分けていたこと
・一つ一つの音が意味をもつものとして受け取られ、無意味な音の塊にならなかったこと
問一
傍線部(1) 雑音・騒音というべきものはありえなかった
どのようなことを言っているのか説明せよ問題冊子の【三行】を参照
模範解答
中世都市には家畜や子供の声、鐘の音など多様な音が雑然と飛び交っていたが、人びとは現代人とは段違いに鋭い聴覚で一つ一つを意味あるものとして聞き分けており、無意味な音の塊として処理される音は存在しなかったということ。
問二
傍線部(2) 美しさと便利〜いたのである
どのようなことを言っているのか説明せよ問題冊子の【三行】を参照
設問型
どういうことか
本文参照箇所
むろん、その〜はなかった。……
写本は通信手〜財宝である。
考え方
写本は○○であり○○でもあり、両者は○○
傍線部の二語を押さえる …便利さ/美しさ
便利さ …情報を正確に蓄え、時と場所を越えて伝える
美しさ …細密挿画・凝った装飾のイニシャル文字
⇨ここで止めると『両方あった』の並記で終わる
鍵は直前の一文 …走り書きの紙片とのちがい
紙片は書き捨て、写本はモノとして重みをもつ財宝
→同じ一つの物の中で、実用と美が切り離せない
必要要素
・情報を正確に蓄え、時間と空間を越えて伝える実用の手段であったこと
・細密な挿画や装飾文字を施された芸術品であったこと
・走り書きの紙片と違い、モノ自体が財宝としての価値をもったこと
・実用と美が同一のモノにおいて切り離せない形で結びついていたこと
問二
傍線部(2) 美しさと便利〜いたのである
どのようなことを言っているのか説明せよ問題冊子の【三行】を参照
模範解答
写本は情報を正確に蓄え時空を越えて伝える実用の利器であると同時に、細密な挿画や装飾文字を備えた芸術品でもあり、走り書きの紙片と違ってモノ自体が財宝の価値をもつ以上、実用と美は一つの物の中で切り離せなかったということ。
問三
傍線部(3) 画家にとって〜中されていた
なぜこのように述べているのか説明せよ問題冊子の【五行】を参照
設問型
なぜか
本文参照箇所
写本と書簡の〜えではない。
考え方
近代の絵は○○、中世の絵は○○だから
答えの型 …近代の絵と中世の絵のちがいから説く
近代 …対象を忠実に写し、見る者は鑑賞する
中世 …絵も写本・書簡と並ぶ通信の記号
絵は物語を語り、見る者は意味を解読する
⇨関心は写実ではなく、物語を伝える記号にある
→だから稚拙に見えても、それは能力不足ではない
必要要素
・近代の絵画は対象の忠実な描写を目指し、鑑賞されることを目的とする
・中世の絵は写本・書簡と並ぶ通信の記号であったこと
・絵は物語を表現し、鑑賞ではなく意味を解読されるものであったこと
・稚拙に見える表現は能力不足でなく関心の違いによること
問三
傍線部(3) 画家にとって〜中されていた
なぜこのように述べているのか説明せよ問題冊子の【五行】を参照
模範解答
近代の絵画が対象をいかに忠実に写すかに力を注ぎ、見る者もそれを鑑賞することを目的とするのに対し、中世の絵は写本や書簡と並ぶ通信の記号であり、壁や羊皮紙の上で物語を語るために描かれ、見る者もそこに秘められた意味を解読したのであって、写実の巧拙はもともと目的ではなく、稚拙に見える表現も関心の所在の違いから生じたにすぎないから。
教員用
背景知識
中世美術において図像が教化・伝達の手段であったという一般的知見は『解読されるもの』という記述と整合するが、本文はその社会的理由を述べていない。本文の『近代の絵画』は、写実性と個人鑑賞を前提とする近代以降の絵画観を指す。模範解答Pの『文字を知らない人々にも』は本文に根拠がなく、得点上の扱いは不明のため要素化していない。
設問外の本文理解
仲介スピーカーが復唱し、扇形に声が広がっていったこと(第3段落)。街頭で禁令を触れる役人、教会の内外で魂の内面を語る聖職者(第4段落)。文字使用のほとんどは著作ではなく書簡であり、王侯貴族は祐筆に手紙を書かせた(第9〜10段落)。問一(声)・問二(写本)・問三(絵)は本文の幹の三局面にそれぞれ対応し、評価対象が重複していない。三問を通せば本文全体が回収されるため、全文を問う設問の追加は不要。
注意
『静かだった』『音が少なかった』は本文の逆説構造と矛盾するため不可。『耳が良かった』だけで、何が多数あったか、何を聞き分けたかの具体を欠く答案は要素不足。
模範解答(全候補)/問一
【Claude・採用】中世都市には家畜や子供の声、鐘の音など多様な音が雑然と飛び交っていたが、人びとは現代人とは段違いに鋭い聴覚で一つ一つを意味あるものとして聞き分けており、無意味な音の塊として処理される音は存在しなかったということ。
注意
『美しくもあり便利でもあった』という並記のみでは不可分性の要求を満たさない。美・便利のいずれか一方に終始する答案は要素不足。『美しいから大切に保存された』という一方向の因果は本文が明示していない。書いても誤りとは言えないが必須要素とはしない。
模範解答(全候補)/問二
【Claude・採用】写本は情報を正確に蓄え時空を越えて伝える実用の利器であると同時に、細密な挿画や装飾文字を備えた芸術品でもあり、走り書きの紙片と違ってモノ自体が財宝の価値をもつ以上、実用と美は一つの物の中で切り離せなかったということ。
注意
『画家の技術が未熟だった』は本文が明示的に否定しており不可。絵画論の内部で閉じ、文字と並ぶ通信記号であることに触れない答案は、五行の分量に対して要素不足。『文字を知らない人々のため』は本文に根拠がない。必須要素として要求せず、書かれていても単純な誤りとは断定しない(教師判断)。
背景知識
絵が選ばれた背景として識字率の階層差を考えることはできるが、本文に民衆一般の識字についての記述はない(本文外の推測)。模範解答Pが加える『文字を知らない人々にも』は、この一般的知見に基づく拡張解釈の可能性があるが、本文には根拠がない。得点上の採用解釈として扱うかは先生の判断に委ねる。
模範解答(全候補)/問三
【Claude・採用】近代の絵画が対象をいかに忠実に写すかに力を注ぎ、見る者もそれを鑑賞することを目的とするのに対し、中世の絵は写本や書簡と並ぶ通信の記号であり、壁や羊皮紙の上で物語を語るために描かれ、見る者もそこに秘められた意味を解読したのであって、写実の巧拙はもともと目的ではなく、稚拙に見える表現も関心の所在の違いから生じたにすぎないから。